イワナとヤマメを生産する養殖場の後継者を募集するYouTube動画を観たことがきっかけとなって、2023年2月に金山町に移住された池田達哉さん。渓流釣りの趣味が高じて、内水面養殖業の継業を探していたという池田さんにお話しを伺いました。
-金山町に移住されたいきさつを教えてください。
とにかく内水面養殖業が事業承継できるっていうのが一番の移住の理由です。場所はどこでも良かったんですけど、まず内水面養殖業の一次産業の部分、魚の生産っていうところを卵からしっかり自家養殖している事業者さんを探していて、たどり着いたのが金山町でした。
一次産業ができれば、二次産業三次産業はこれまでの経験を踏まえたうえで事業化できるなって思っています。
-ゼロからじゃなくて継業だったんですね。
ゼロはそもそも不可能に近いです。特に内水面養殖業だと水の権利の問題があるんです。施設造るのにもすごいお金がかかっちゃうので、ゼロからっていうのは考えてなかったです。それに、特に地方地域では後継者不足で廃業してしまう事業所さんが沢山あって、そこに対して、地域産業を守るために国も事業承継に力を入れようとしているんですね。そういう社会情勢にも後押しされて継業先を探していました。
最初はM&Aっていうかたちで、その事業を買うつもりでずっと探していたんですけど、そこに金山町の地域おこし協力隊の募集があったんです。お給料をもらいながら勉強させてもらって事業費もついてきて、3年後にはある程度販路もあるぞと。見つけられてラッキーでした!
-内水面養殖業に関心をもたれた理由を教えてください?
釣りですね。色んな釣りをするんですけど、山の中を歩いて、水の音聴きながら自分で魚を探しながらする釣りってのはやっぱ楽しいですよね。で、渓流釣りの趣味の延長で仕事ができるといいなって思ってました。自分が歳をとっても定年退職とかなくやっていける仕事で、ある程度見込みたっていけるんだったらそれこそいいなぁって。
それに、アウトドア好きなんで、養殖業からキャンプだったりバーベキューもそうですけど、色んなことに繋がっていけることができるっていうのも大きかったですよ。
あとは、やっぱり内水面養殖業自体が非常にニッチな世界なんです。ニッチでやる人がいないし、参入障壁がやっぱり高い。であれば逆に、ここで継業して軌道にのせることができれば、これからこの先を考えていったときには残存利益じゃないですけど、事業を継続できている人がマーケットをおさえていけるかもしれないぞって思ったのもありますね。
-協力隊としてどんな活動、お仕事をされているのでしょうか?
80歳になるのを期に2024年の秋での引退を決めていた小沼四市さんからの事業承継を目指して、四市さんに弟子入りしています。四市さんの「いわなや」ではイワナとヤマメを養殖しています。
仕事の一番は水の管理ですね。水がちゃんと出るかもそうですし、杉の葉が引っ掛かったりすることがあるんで掃除はほぼ毎日やってます。
あとは給餌したり、魚の選別をしたり。今日なんかは午前中はずっとヤマメの検卵です。15万粒くらいあるんで、水カビで死んで白くなってしまった卵を取っていかないと、健康な卵もやられちゃうんですよね。なので検卵をずっと午前中ひたすらやってました。
-師匠と一緒に?
今ひとりです。去年もやってるので、あとはお前やっておけって。今はヤマメで、来週からイワナが始まるんですよね。イワナの方が全然多くて20万粒くらいだから、これから年末年始にかけてずっとやりますよ。
1月の中下旬くらいにヤマメから給餌が始まって、1日6回くらい餌やりするんですけど、3月になってようやく暗室から外に出して陽の光を浴びながら餌をやって、4月5月くらいから稚魚が欲しい人に出荷していきます。稚魚の状態で8割ぐらいが生存しているから、ヤマメで12万尾くらいですかね。
-餌より水なんですね?
とにかくとにかく水ですね。水が一番本当に大事です。
そこは四市さんが本当に工夫されていて、金山川と井戸水とあとは神室山の沢水。全部で3系統あってリスク管理なんですけど、大雨だったりとか台風が来たりすると金山川からの水はダム放水で濁りが入っちゃうんです。だから養殖場に濁りとか、土砂とかが入んないように閉めてしまって、その分沢水と地下水の量を上げたりとか、コントロールできるようにされています。
うちの特徴として、飼育の仕方が流水式なんですが、これが珍しいんです。養殖の仕方とし、一般的には湧き水を利用しているんですよ。なぜかって言うと湧き水は水温が一定だからなんです。大体10℃とか12℃くらい年間を通してあって、水温が一定ということは魚も一年中餌を食えるんですよ。だからすぐ大きくなれるんですけど、流水式でやっていると、冬場は3℃、夏は今年だと22℃とか行っちゃって、そうすると餌を食わないんですよね。今年も一カ月くらい餌を食えなくて出荷を止めました。これは完全にデメリットですね。
-流水式のメリットは?
メリットは、まずは自然の水なので電気代がかからない。湧き水とかだと結局ポンプで汲みあげたりしていて、設備にまたお金がかかるというのもありますね。そして、新鮮な水なので酸素の量が多い。だから魚が元気なんです。
あとは、川の水って山の養分が入っているわけですよね。ミネラルとかもそうですし、虫も養殖場に入って来る。それをここの魚は食べてるじゃないですか。こないだもオニヤンマのでかいヤゴとか普通に食べれるんです。流れてくるから。本当に自然に近いかたちで養殖できいているので健康的です。それに、冬寒くて餌を食べない分耐えるじゃないですか、身がしっかり引き締まるので、3月4月の刺身が一番うまいって四市さんも言ってますね。
-病気にかかりにくいって聞きました。
本当に病気一切ないんですよ。湧き水だと水の流れが少なくて、一般的な養殖だとエラが赤くなっちゃったりするせっそう病とかの病気に罹りやすいんですね。他の事業所さんだとそういうのが入ってるから投薬しないといけないんですよね。
で、これは四市さんがずっと言ってるんですけど、うちは他から魚を入れていないんです。金山川の魚をずっと継代で育てて来ているから全く病気がないっていうのが自慢です。他の養殖事業者さんだと自家採卵はせずに稚魚を買って入れているところもあるんです。そうすると仕入先に病気が入ってたら、蔓延しちゃうことがあるんです。だから四市さんからは、とにかく他から魚を入れるなってずっと言われています。
-池田さんはそういうことを分かったうえで継業にチャレンジしたのですか?
たまたまですね。でも流水式の話しとかは来る前に聞いているんですよ。無病っていうことと、あと他から入れていないってことも。
生態系の問題とかもあるじゃないですか。だから川にお前絶対ニジマス放すなよって言われてます。釣り堀造ってもいいけど、川にはニジマス放すなっていう話もしてたり。ヤマメとかイワナしかいない川なのに、ニジマスを放流したらニジマスは繁殖力も強いし一気に広がっていっちゃうから、金山川はそういう川にはすんなよって言われています。
―金山に来てもうすぐ1年経とうとしているなかで、思い描いていた暮らしは実現していますか?
そうですね。やりたいことやってるので。仕事も釣りも。特に問題ないですかね。
って言っても、家と養殖場とファームの往復くらいしかしてないんですけどね。たまに温泉行くくらいで。
―今後の実現したい理想の暮らしってお持ちですか?
師匠の四市さんの影響がやっぱり大きくて、彼は本当にスローライフっていうか、そういう生活をされているんですよね。日の出とともに朝起き、日暮れと共にもう仕事が終わるって感じなんですよ。で、そのなかで自己裁量のなかで仕事ができて、季節になったら山菜採りに行くかとかキノコ採りに行くかとか、山に行って木を切ってきて薪をつくるかみたいな風にしていて。なんかそういう生活っていいなって。しかも鉄砲も含めて狩猟もされるんですけど、カモが出てきたらカモ獲りに行くかって獲ってきて、じゃぁ毛をむしってみたいな、じゃぁ食べてみたいな。こういう暮らしって都会じゃ絶対できない暮らしでもあるので、そういう暮らしをやってみたいっていうのは思います。
で、そういう暮らしを自分が経験をするんですけど、その先にはやっぱり周りの人、家族を含めて都会の人とかね、そういう人にこういう文化とかいいなって思ってもらえるようにしていきたいですね。
―地元の若い人にもね、そういうところがいいなって池田さんを通して感じてくれたらいいのにね。
雪降ってヤダとか、もうこんな田舎でどうこうとかそんなマイナスな話しって多いじゃないですか。私も金山に来たときに「なんでこんな田舎に来た?何やんだ?都会の方がいいだろう?」みたいな話はやっぱりされましたけど。都会は便利は便利ですけどね。それはそれでいいですけど、こっちにはこっちの良さもあるし。
―僕もそういう良い面を見つけたいなって思って色んな人に会いに行ったりしてきたんだけど、ダメなところを見だしたらキリがないじゃないですか。
ね。でもやっぱり季節になったら食べ物もそうなんですけど、秋になってリンゴ食べて次に洋ナシが来てみたいに、その時の旬のものを皆楽しんでいて。鮭も上がってきたから鮭獲るかって話になったりとかね。面白いなって思って。そういうの。
―本当にそう思う。豊かさを感じるところだよね。
冬は軒下に大根をつるしてたりするじゃないですか。干し柿もそうだけど。なんか昔自分が小さい頃に見た光景っていうか。大きくなって見向きもしてこなかったんだけど、今はなんかそういうのっていいなぁって思うんです。
―池田さんの思う金山町や有屋地区の魅力を教えてください。
有屋の魅力は雪山があり、山があり、水は綺麗だし釣りができるみたいなのもあるから、ここは規模は小さいけれども全部ここで遊べるなっていうのはあります。それと、小さいからこそコンテンツを提供する側、運営する側として何かやれる、チャレンジできるっていうのはあるかな。
たとえば雪板だって良いって俺は思ってるんですけど、普通の庭感覚でどこでだって勝手に遊べるっていうか。山に行ってキノコ採ろうが舞茸採ってこようと思っても誰に言われる話でもないじゃないですか。なんか四市さん見ててそう思いますね。どこに行ったって「俺の山だ」みたいになってますからね!笑
仲間たちとは、金山のなかでも有屋が盛り上げていかないといけないんだって話しをしています。外貨を稼げる要素が一番揃ってるのは有屋なんだって。スキー場や温泉もリニューアルするし、シェーネスハイムがあるから宿泊もできる。
―金山、有屋地区はどんな地域になるといいと思いますか?
アウトドアの好きな人が集まって来る地域にしたいなっていうのはありますね。もともと宿泊施設がある温泉があってスキー場もあって遊べるところがあり、体験的にも沢山コンテンツがあるので、そういうところにアウトドアが好きな人が移住してきて、お店開いたりガイド的なものを始めるのでも全然いいし、津田君が昨年始めたSUPツアーみたいなのをやる人がいてもいいし、そんな人が集まって来て欲しいなって思いますね。
私も、もし有屋で新しいことを始めよう起業したいっていう人が来てくれたら、これまでの経験も踏まえて、商工会や町役場と連携しながらその人をバックアップしていくつもりです。
それで今、有屋地区の仲間で集まっていて、有屋をそういうアウトドア好きな人が移住してくる地区にしようって話をしています。そこにシェーネスハイムの支配人とか町の産業課が入ってきて、有屋からどう金山を盛り上げていくか話し合っているところです。
各事業者がそれぞれ発信していくのはいいんですけど、見せ方としては一帯で遊べるっていう方がいいじゃないですか。馬やってバギーやるとか、それこそ釣りやったり、雪山ハイキングとか、そういうことを移住してきて始めた人たちと一緒にやっていきたい、一緒に盛り上げていきたいなと思っています。
―池田さんは釣りですよね?
養殖場の隣りの休耕田を開発して、メインは釣り堀ですけど子ども達の食育にも挑戦したいです。やっぱり魚がいるのに魚のことを知らない子どもがいるって結構ショックなんですよね。本当に。イワナもヤマメも知りませんって言うんですよ、金山の中学生も高校生も。川で遊んじゃだめっていうことになってるから、だったらこっちは安全に遊ぶ場を開発したい。川遊びとか、魚を見学でもいいし。
これは私の来年再来年くらいのイメージなんですけど、しっかり釣り堀とかトイレを整備できれば、団体が呼べるんです。食育体験パッケージみたいな形で、ここから2時間圏内の大体小学校4年生くらいの30人学級をターゲットに、日帰り研修みたいにできないかってイメージしています。最初は出前授業で魚の話しをしてから金山に来てもらって、養殖場には、卵から稚魚、大きくなると親魚までいるわけじゃないですか。魚の一生を見てから、実際に魚に触れてもらって、釣りなのか摑み取りなのか分からないですけど。なんなら自分で捌いて焼いて食べて帰ってもらう。それを実現させたいなと思ってます。
ご自身がニッチと言う内水面養殖業を、継業によって参入したいと考えていた池田さん。東京で外食産業業界で働いていた経験も活かして、ビジネスとしての可能性をしっかり見極めたうえでの内水面養殖業への参入だったのだなとインタビューを通して知ることができました。
金山町の募集情報にタイミングよくアクセスできた幸運もあったのかもしれませんが、何よりご自身にこれを生業にしたいという明確なビジョンとそれを実現するためのイメージを持たれていたことが、金山町と池田さんの幸せなマッチングに繋がったのだと思いました。
池田さんは、有屋地区にアウトドア好きな移住者が集まると良いな、点ではなく面で展開できればと語ってくれました。これからアウトドア関連のビジネスをしたいなと思っている方、それよりもっとライトに、最上地域や金山町のアウトドアに関心がある、やってみたいなという方も、池田さんを訪ねてみては如何でしょうか?
取材日:2023年12月13日
聞き手:梶村勢至(最上暮らし連携推進員)
宮城県柴田町出身。父親が寒河江市出身のため、幼少期から山形に馴染みのある環境で育つ。趣味の渓流釣りを通して内水面養殖業に憧れを抱き、18年間勤めた都内企業(全国居酒屋チェーン)を辞めて2023年2月に金山町に移住。地域おこし協力隊に着任し、同町有屋の養殖業「いわなや」の事業承継に取り組んでいる。