2019年に家族4人で鮭川村に移住されたラーワーさんご一家。二児の母として、絵本作家として、そしてなりたての村会議員としてもパワフルに活動されているラーワーちひろさんにお話しを伺いました。
-移住先として鮭川村を選ばれた理由や経緯を教えてください。
夫のフレッドの希望で、彼の生まれ故郷(アメリカ・ウィスコンシン州)のように雪が積もるところで、都会過ぎないところがいいなと探していたんです。山形県の移住ポータルサイトで見つけた鮭川村の子育て支援住宅を見たくて村役場を訪ねたら、担当課長がめちゃくちゃフレンドリーで惹きこまれてしまって。「フレッドに仕事も用意するから!」と大歓迎してくれたんですよね。
その時に泊まった羽根沢温泉の旅館のお父さんお母さんもすごい優しかった。人がいいのがいいなって、フレッドと「なんとかやっていけるんじゃない?」ってなったんですよね。
山形は豊か。人の心も、山のめぐみも。
-移住した鮭川村の印象は?
以前、人間関係が理由で移住を失敗したことがあって。
私は家族のことを一番大事にしていて、仕事や地域とのつながりも大事だけど、優先順位をつけて出来る範囲で頑張っていたのだけど、それが面白くないと思う人から嫌われてしまって。
それが、鮭川村だと全然何も言われないんです。何かを強制されることもないし、皆それなりに家庭の事情があって「すいません今日うちの夫夜勤で行けません」が全然普通で。比較して気楽にいられる場所だったから安心感がすごいですね。移住を失敗した場所だと山菜採りも自由にできなくて、他県ナンバーの車が停まるとすごいチェックされてました。ここだと皆自由に山に入って採っている。山形は豊かだなって思いました。人の心も山の恵みも。
-ちひろさんが目指す鮭川村でのこれからの暮らしは?
私自身は「好きに自由に生きたい」っていうのを原点にそういう生き方を選んできているのでいいけど、辛そうな人も沢山いるんですよね。小学校の子どもや親も辛そうで、先生に怒られながら頑張って給食を食べた子が家に帰ってきて吐いてるとか、頑張らなくてもいいところで頑張っちゃってて。人から強要されたことをそこまで頑張らなくても、社会に役に立って、それなりに生きていけるロールモデルを作っていけたらいい。
「あの人楽そうで良いよね」とやっかまれたとしても、「楽しく頑張ってるんだからいいじゃん!」って言う人が増えるといいな。そう言ってくれる人が増えるように矢面に立って実践していこうって感じです。
-村会議員への当選おめでとうございます!でもなぜ議員になったのですか?
一回お断りしたんですが熱心に勧められて。それで色々勉強したのですが、議員のなり手のいない地域って衰退していくんですよね。わたし鮭川が好きで、移住して来て良かったって思ってるのにダメになっていくのって嫌じゃないですか。
それで、わたしに何ができるかというより、ラーワーみたいなのができるんだったら俺たちでもできるんじゃないかって火付け役になれたらいいなと。だから髪の色も頑張って戻さないようにしてるんですよ。当選したから黒髪にしたって思われると固定観念を崩せないので!
-選挙活動や村議としての活動を通して村の見方は変わりましたか?
結構変わりました。村の人との付き合い、つながりが増えて見えることも多くなりました。
地元の人にも色んな考え方、捉え方があるんだなというのも見えてきました。
私の耳に入ってくるのは、現場の、子育てしたり働いている人たちの声。そうした声を反映してますか?って伝える機会がこれまでの議会に不足していたとしたら、私の役割なのかなって感じています。
あと、ベテランの議員さんが意外と優しいんですよ!「困ったことあったらなんでも言ってね」と言ってくれて、10人の議員の仲は良好です。
-村に来て間もない移住者がチャレンジできて、村の人からも受け入れてもらえる環境って凄いですよね!ぶっちゃけ議員って楽しいですか?
おかげさまでめちゃくちゃ楽しんでやってますね!知らない世界を見るのが結構好きなので、チャレンジさせてもらえる今の環境、立場にもめちゃくちゃ感謝してます。
今ある色んな課題についても、そのまま切り拓いていくべきか、切り拓くべきじゃないから残されているのかまでは私にはまだ判断する材料が揃っていないので、まずは見て、自分が知らないということを知って学んでいくのも楽しいです。
-絵本のことについてもお聞きしたいと思います。鮭川に来られてから絵本作家になられたんですよね?これまでに何冊発刊されましたか?
鮭川に来るまではイラストをちょこちょこっと描くくらいだったのだけど、鮭川でデビューしちゃいました!
発刊したのはこれまでで5冊です。そのうち2冊がオリジナルで、3冊が村の昔話。
今6冊目を作っています。猫がいっぱい出てくる村の昔話です。村の教育委員会と読み聞かせサークルの人たちと、「今年は何にする?」って選んで作っています。
オリジナルの次回作もテーマもストーリーボードもほぼほぼ出来ているんだけど、今度は自家製本ではなく出版社からの出版を目標に取り組みたいなと。
-絵本を出すようになって変わったことは?
絵本には、作者のわたしがどんな考えの人かとか色々詰まっていると思うんですけど、絵本を通じて私自身に興味を持ってくれる人が増えたなと思います。
わたしの『サンタさんなんてだいきらい』を読んで泣いてくれる人もいるんですよ。世の中理不尽だなと感じている人が、きっと私と同じ考え方の人がいるんだと琴線に触れたのかなと思うと描いて良かったなって。絵本って自分の内面がばれちゃう、人前で裸になるような感じもあるんだけど、自分をさらけ出す表現するのって気持ちがいいことだなって思います。どういう物なら自分を表現できるかというと、わたしには絵本だったんだなって。
-お住いの地域の魅力を教えてください。
やっぱり人になっちゃうな。こんな田舎なのにそこまで排他的ではないんですよね。すごく温かく受け入れてくれるし。それだけ豊かで、だから心が広い人が多いのかなって思います。
でも、その豊かさからなのか、ガツガツしている人が少ないなって感じることもあります。ガツガツじゃなくて逆にみんな和やかにしているところがあるなって。良い面でもあり悪い面でもあるのかもしれないですがガツガツしていない(笑)
-村の人の心を広くする豊かさってどういうものなんでしょうか?
水にも食べ物にも恵まれているので、けちけちしなくても十分生きていけるんですよ。と、勝手にわたしは思っています。豊かだから昔話や歌舞伎などの文化が発展してきたのかな。
-移住してくる人、移住したばかりの人がいたらどこを案内しますか?
その人がどういうことに関心を持っているのかにもよるかな。あと何歳くらいとか、性別にもよるかも。あと季節にもよって変わってきますよね!(笑)
でも、紹介したい人は沢山いますよ。
-その人たちに共通することは?
鮭川ライフを楽しんでいる人!ここでこういう楽しみ方ができるんだって見てもらうのが一番かなって思います。運動好きな人ならトレランしてる村職員さん、食べ物に興味ある人だったら自ら農業してて郷土料理にも詳しい素敵女子、鮭のウライ漁やってるおじちゃんたちも紹介したいな。
―最後に、ちひろさんがお住いの鮭川がこれからどんな村になるといいですか?
私こういうことやりたいんだよねって言える場所って大事だと思うんです。やりたいってことに対して、自分ならこういうの出来るよとか一緒にできるよって言える場所。やれやれって煽って応援する人も居て。
皆が縮こまって奥に引っ込んでいたら何も生まれないから、そういう人たちが前に出てきて「私はこれをやってみたい」と言えるような雰囲気にしたいな。「うまくいくかどうか分からないけど、面白そうだから挑戦しよう!」みたいな、地域がモリあがるかもしれないなってワクワクする、そんなチャレンジできる雰囲気がある村になるといいなと思います。
田舎でだって自分を表現できることを軽やかに体現してみせてくれるちひろさん。肩肘張らずにあくまで自然体で、村での暮らしにも村議会にも飛び込んでいけるのはカッコいいなと思います。
移住した鮭川村で絵本作家としてデビューしたちひろさんは、村の昔話を題材とした絵本を作ることになりました。地域の中に自分の担える役割を見つけることができたのは、とても幸せなマッチングだったなと思いますし、そうした機会を提供してくれた村の度量の広さを感じました。都会よりも、人口の少ない田舎の方が地域での役割を見つけやすいのかもしれませんね。
村の人の優しさ、山の豊かさに触れてみたい方はラーワーちひろさんを訪ねてみてはいかがでしょうか?
取材日:2023年12月20日
聞き手:梶村勢至(最上暮らし連携推進員)
群馬県前橋市出身。2019年に一家4人で鮭川村に移住し、絵本作家デビュー。自家製本作品の『モンスターほいくえん』、『サンタさんなんてだいきらい』のほか、村の昔話を題材にした絵本(鮭川村教育委員会刊)を制作。イラストレーターやライブペインターとしても活躍中。2023年12月から鮭川村議会議員。山形県立博物館協議委員。2023年より最上暮らしパートナー。